「テイルズ オブ ジ アビス(TALES OF THE ABYSS)」の感想

 地道にプレイして先日ようやくクリアできた「テイルズ オブ ジ アビス(TALES OF THE ABYSS)」についての感想です。システム面とストーリー面に分けて書いていきます。

テイルズ オブ ジ アビス

テイルズ オブ ジ アビス

 ネタバレを含むので気をつけてください。

ゲームシステムの感想:

 “テイルズ オブ シリーズ10周年記念タイトル”と銘打たれているだけあってさすがによくできた作品でした。
 「テイルズ」シリーズは(システム面では)「ディステニー2」で一応一つの頂点に達しましたが、その後は新しい方向性を探るためか挑戦的な作品が目に付きます。しかし3Dに挑戦した「シンフォニア」も、これまでにない斬新なシステムを多く導入した「リバース」も、原点回帰的にシンプルだった「レジェンディア」も、決して悪くは無いものの全体の完成度は今一つという印象で、「テイルズ」シリーズの今後が不安でした。
 しかし「アビス」は一言で言えば“今までの良いとこ取り”で、新鮮さはない代わり完成度自体はとても高くまとまっています。

 「シンフォニア」をベースにしながら、「ディステニー2」の秘奥義発動条件や術・技の使用回数による強化、「リバース」の自由な空間移動など(“フリーラン”は感覚的にここからだと感じました)、各作品の長所をさらに練った上で上手く取り入れています。
 できることが非常に多く、「テイルズ」初心者にはちょっとついて行けないところがあるかもしれませんが、基本的にはレベルアップとともにできるアクションが増えていく仕様となっているので、一つ一つを順番に覚えていけばたぶん大丈夫でしょう。
 逆にシリーズをプレイし続けてきたプレイヤーにとっては、できることの多さがそのまま楽しさに繋がっています。通常連携×5→特技×2→奥義→FOF変化技→秘奥義、なんてやってるともはや笑うしかありません(たぶんもっといけるでしょう)。
 復活した過去の作品のシステムも多く、ファン泣かせです。マジックガードの復活は、「ディステニー2」でスプラッシュやエンシェントノヴァなどの攻撃判定の発生を覚えてジャストのタイミングでマジックガードできるようになっていた人にはたまらないものがあるでしょう。

 バランス面もなかなか良好です。「テイルズ」は簡単すぎ(「ディステニー」・PS版「ファンタジア」・「シンフォニア」・「レジェンディア」(SFC版「ファンタジア」は未プレイです))か難しすぎ(「エターニア」・「ディステニー2」・「リバース」)の両極端でした。今作は簡単な方に分類できますが、それでも他作品ほどの手応えの無さではなく、特にボスは攻撃力が高く設定されておりなかなかの緊張感があります(難易度ノーマル設定での感想、もしかするとハードくらいが丁度良いのかも)。

ストーリーの感想:

 ここからネタバレしまくりますので注意!

 私が「テイルズ」シリーズに求めているのは戦闘の楽しさなのでストーリーの出来はあまり気にしていなかったのですが、正直今までの作品はあまり良いストーリーだとは言えませんでした。
 これまではトンデモ設定にトンデモ展開を重ねて、最終的に収拾がつかないというパターンが目立ちました(特に「ディステニー2」と「リバース」)。また、詰め込みすぎで結局散漫になるものもありました(「ディステニー」や「シンフォニア」)。
 しかし「アビス」はトンデモ設定なのは相変わらずですが(まあファンタジーだからと目を瞑れますし)、テーマやストーリーの芯はしっかりしており、散漫にもならずにかなり上手く纏められていました。

 ストーリーの成功には、キャラクターの描写に鍵の一つがあったと思います。
 これまでの作品の主人公は、“無個性”か“熱血バカ”の二択でした。「女神転生」のような主観視点のストーリーなら無個性な主人公で問題ありませんが、「テイルズ」は一貫して客観視点のストーリーであり、無個性な主人公では特に「テイルズ」のトンデモ展開を引っ張るには不十分でした。熱血バカはありきたりで無個性とあまり変わりがありませんし、ストーリーの暴走に拍車をかけるところもありました。

 ところが「アビス」の主人公(ルーク)はこれまでのシリーズにはあり得なかった主人公です。「ウザい」が口癖で(現代用語の連発はどうかと思いましたが)、何をするにも無気力というステレオタイプな“現代の若者”です(よくある“現代の若者”像自体がマスコミの作り出した幻影かもしれませんが)。その上身分の高い生まれでそのことに胡坐をかいていて、さらに長い間軟禁されていたという設定から世間知らずです。
 「テイルズ」に限らずなかなか無いヤな主人公ですが、剣の師匠であるヴァンにだけは従順という可愛い(?)一面もあります。

 しかし中盤で取り返しのつかない大きな過ちを犯し仲間から見捨てられどん底に落ちる痛い展開を経た後(実に私好みな展開)、真人間(?)へと変化していきます。この辺の描写がなかなか細かく、関心します。
 これだけでも「テイルズ」としてはなかなかですが、ここからさらにもう一山あります。ダメ人間の更生劇というだけならよくありますが、しかし主人公はそれまでの尊大な性格を反省し変わろうとした結果、逆のベクトルへ大きく針が振り切ってしまい、自信を喪失し卑屈な性格になってしまいます。特に主人公と関係の深いアッシュというキャラクターへのオドオドした態度は痛すぎます。
 当然その後再び変化していくのですが、この二重の性格の変化にはやられました。一度目の変化はプレイした人間の誰もが予想するところですが、ここまで予想した人は少ないのではないでしょうか。
 この辺の主人公の人間性の変化がストーリーの芯として機能しており、話がブレ無かった理由だと思います。

 脇を固めるキャラクターもよく出来ています。
 ヒロインのティアは常に主人公に厳しい態度を取りつつ、的確にアドバイスを送ります。実は主人公に対する態度の変化がもっとも少ないキャラクターでもあります。
 幼馴染のガイは主人公にもっとも優しく接し、中盤以降他のキャラクターから辛く当たられる悲惨な状況をある程度緩和する役目を果たしています。
 ジェイドはその時々の主人公の状態に対して的確な態度をとり、プレイヤーが主人公の変化を理解するのに一役買っています。
 アニスは逆に極端な態度をとり、序盤はベッタリと、中盤以降は突き放した態度で、主人公の置かれた立場を明確にしています。
 ナタリアは主人公とアッシュの間で揺れ動き、両者を比較させます。
 そしてもう一人の主人公と言えるアッシュは、主人公との対比のための存在であり、中盤の主人公の理想となります。
 こういったサブキャラクター達が主人公の存在を際立たせ、ストーリーを上手く成立させています。

 敵として登場するキャラクターも同様で、これまでのシリーズでは(ゲーム的に)強いか弱いかというくらいの印象しかありませんでしたが、一人一人のキャラクターがわりと深く掘り下げられていて、客観視点のストーリーで重要な主人公側と逆の視点という役割をしっかりと果たしています。
 特にシンクというキャラクターは、アッシュとはまた違った“主人公のもう一つの可能性”であり、よりストーリーを深くさせています。

 また、この作品の世界設定では“スコア”という予言が絶対的なものとして存在しており、敵も味方もこれとどう対峙するかというやりとりで最後まで物語が進むので、テーマも明確で地に足の着いたストーリーとなっています。

難点:

 ここまで褒めちぎりましたが、残念な点もあります。その一つがロード時間の長さです。何が原因なのかは知りませんが、とにかく画面切り替え時のロード時間が長い!セガサターンや初代プレイステーションの時代と比べれば大したこと無いかもしれませんが、今の時代ではちょっと辛いですね。
 慣れてしまえば…、と言いたいところですが、この辺は人によってかなり感じ方が違うので、なんとも。

 もう一つの難点はかなり個人的なものですが、“コンボコマンド”が存在しないことです。
 初作から存在し、「ディステニー2」では標準機能となっていた、2D格闘ゲームのようなコマンド入力によって技を使えるシステムが、「シンフォニア」以降撤廃されています。これがかつての2D格ゲーマニアだった私には本当に残念なことです。新作が出るたびに復活を期待するのですが…。
 “昇竜拳”コマンドの練習をしたり、学校で授業を聞かずに連続技のイメージトレーニングをしていた人なら判るでしょう、コマンド入力はそれだけで楽しいのです。それだけでなく、いくつもの技を使い分けるのに一々メニューを開く必要が無く、コマンドを変えるだけでその状況に対応した技を出せるのも重要なことです。次回作こそコンボコマンドの復活を!

総評:

 まあ、ロード時間の長さはきついものの、痒いところいに手の届くシステム、「テイルズ」とは思えないストーリーの出来の良さ、と総合的にはかなりの完成度だと思います。またボリュームも相当なもので、その辺を期待している人も安心です。