「DARKER THAN BLACK -黒の契約者-」の感想

 最近数ヶ月またぎで肩の凝る内容ばかりだったので、久しぶりに気楽なことを。

【完全生産限定版】DARKER THAN BLACK-黒の契約者- 1 [DVD]

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DARKER THAN BLACK-黒の契約者- 1 (通常版) [DVD]

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 珍しくアニメの感想です。
 このアニメのことは黒絵(BlackSun)さんのところで知りました。私は普段あまりアニメを見ないのでアニメ関連の情報にも疎く、こういったマイナーな作品を知る機会も少ないので有り難い限りです。

 超能力ものと言えば、漫画なら「X-MEN」や「幻魔大戦」(古!)や「超人ロック」(こっちは現役)、ゲームなら「サイキックフォース」や「エスプレイド」といった派手派手なバトルを描いたものを連想しますが、「DARKER」は全く逆の、非常に地味な内容になっています。
 地味というと語弊があるかもしれませんが、一つの事件を発端から経過、結末まで2話かけて丹念に描き、結果として戦闘シーンはごく短時間となっており、それが地味という印象に繋がってしまうのだと思います。
 アニメ作品はハッタリの利いたもの、ケレン味の強いものに人気が出る傾向があると思われるため損している気がしますが、これだけドラマをしっかり描いた作品は今時珍しいのではないかというのが、今現在「DARKER」と「遊戯王GX」しかアニメを見ていない私の適当な感想です。

 一見、暗く無機質な印象を受ける作品ですが、非常に情緒豊かというのも特徴です。
 東京を舞台としながら、鉄塔やビルの屋上、ガード下、寂れたタバコ屋など都会でも哀愁や淋しさを感じる場面を多様したり、都心から少し離れた古いアパートや廃校が描かれたりと、背景からして感情を揺り動かすものがあります。
 また、“感情を持たない”とされる“契約者(特殊な能力を持った者)”(これは正確な設定ではない模様)が時折見せる激しい感情が、静と動のコントラストからより強く情緒感じさせます。この辺はハッタリで魅せることをしない今作ならではだと思います。

 登場人物の描写もとても私好み。
 見た目的には、主人公の“黒”の格好が冬場の私の格好と同じ(黒コート黒パンツ黒ブーツ)なのがイタいながらも感覚的にピッタリ。というのはまあ置いておいて、昼間は穏和な中国人留学生、夜は冷酷なエージェントという二面性も、時代劇の「必殺」シリーズなどが好きな方はには堪らないものがあるでしょう。
 登場人物の配置も上手いですね。主人公チームの内、美青年の“黒”・美少女の“銀”・猫の“猫”とここまではよくあるパターンですが、もう一人の“黄”がくたびれたオッサンというのが非常にバランスがとれています。この黄は契約者ではなく、むしろ契約者に対して軽蔑とも憎しみともつかない複雑な感情を持っており、主人公達の監視という役目を負っているのですが、一方で黒や銀に対して少しずつ情をよせつつあるのか、彼らの所属する“組織”との板挟みになりつつあるという状況。中年をしっかり描けているというのはそれだけで魅力的です(ちなみに猫も中身はオッサンなので、主人公チームの内半分はオッサン)。
 そして黄に限らず二十代後半〜熟年が良く描けています。13話・14話「銀色の夜、心は水面に揺れることなく…」で登場した二人の契約者(チンピラ風の男と落ちぶれた元シンガーの女)などは声優の上手さも相まって、2話限りの登場なのがもったいないほど。「最近のアニメは萌えばっかりで…」といった批判をよく耳にしますが、いやいやなかなかどうして、すごいじゃないですか。ちなみに今現在放映中の19話・20話「あさき夢見し、酔いもせず…」は待ちに待った黄が中心のお話し。中年の恋なども描かれ、見逃せない内容です。
 そんな中で私がもっとも気に入っている登場人物は、主人公チームとライバル的な関係にある“MI6”のメンバー“エイプリル”。短髪で、白い大きなファーの付いたピンクのコートを着込んだ黒人女性。見た目からして「…たまらんね」(誰か元ネタ分かって)という感じですが、こういったキャラクターが違和感無く、しかし埋もれもせず存在できているこの作品は素晴らしい。

 黒絵さんも触れていましたが、キャラクターデザインを手掛けているのは漫画家の岩原裕二さん。代表作は「いばらの王」になるでしょうか。「この人を起用するとはわかってるなぁ」と偉そうに言ってみたくなります。
 私が岩原裕二さんに注目し始めたのは、「週刊ファミ通」(その当時はまだ「週刊ファミコン通信」だったかも?(どうでもいい))で小さいカットを描いていた頃。「この人のセンスは良い!」と感じ、その後初単行本となる「クーデルカ」から追っかけています。注目していた人がこうやって広く知られるようになると、とても嬉しいですね。

 「DARKER」の話に戻します。
 設定で注目したいのが契約者の使う能力。その能力はそれぞれのキャラクターによって全く違い、およそ統一感を感じさせないものですが、面白いのが能力とセットになっている“対価”の存在。
 多くの超能力ものの場合、その能力に対する制限は体力とか気力とかいったものであり、RPGで言うところの“MP”のようなものがほとんどですが(もしくは制限がない)、この作品の場合能力を使った後に必ず“対価”を支払わなければならないとされています(ただし主人公は(今のところ)例外とされています)。
 その“対価”とは、「指を折る」・「異物を飲み込んで吐き出す」といった痛々しいものから、「小石を綺麗に並べる」・「靴を逆さに置く」といった単にめんどくさいだけのもの、「煙草を吸う」・「酒を飲む」のような嗜好が合えば何の問題もないものまで様々です。ようするに、何かを支払うのではなく、何らかの行為を行うことが“対価”ということらしいです。
 この“対価”が何を意味するのか、“対価”を払わなければどうなるのかといったことはまだ不明ですが(「詩を書く」という言葉を理解しそこに意味を見いだす人間にしか価値の無い行為があることはどういうことかとかも)、ドラマの中の良いスパイスとなっていると感じます。

 “対価”とか“ゲート”とかいった様々な設定上の謎が存在しますが、そういった謎の解明に拘らないのも好印象。
 あくまでそういったものが存在する世界でのドラマを描く、ということに主眼を置いており、設定は会話の端々で語られるという形で説明されるのみです。設定も、本当に契約者には感情がないのか、結局対価を支払わなければどうなるのか、それどころか主人公は夜の“黒”と昼の“李さん”のどちらが実態に近いのか、といったことまでが曖昧にされており、受け手にどこまでが本当でどこまでが嘘((作中での)ただの噂)なのかが解りにくくさせているのが上手いところです。
 「新世紀エヴァンゲリオン」以降、設定上の謎の解明を中心とした作品が増えたという印象があるのですが(まぁ見た本数が少ないので全く信頼性はありませんが)、そういったことには捕らわれず今のままの方向性でいってほしいですね。

 今書いていて思ったのですが、後味の悪い話が多いです。最初の1話・2話「契約の星は流れた…」からして救いの無い内容であり、その後も何かと影の付きまとう内容ばかりです。
 私はそういった後味の悪い話はむしろ好きなのですが、やはり一般受けしづらいのでしょうね…。

 それにしても、15話・16話「裏切りの記憶は、琥珀色の微笑み…」で、“古い人類はでなく新しい契約者による世界の支配を目的とする組織”という清く正しく、いかにも超能力ものらしい存在が出てきたわけですが、次の回からはまたマイペースなお話し。良いですね。

 私がこの作品を見出した時、本放送が12話、ケーブルテレビでの再放送が6話、という状況で、DVD1巻が1話・2話収録。なのでDVD2巻収録の3話・4話・5話で丁度全て見ることができます。もちろん初回特典版を予約しているので、今から楽しみです。アニメにハマるのは久しぶり。