アニメオタクは規制反対を貫けないヘタレなのか

kurotokage2007-09-30

アニメ「School Days」最終回に対するアニメオタクの反応にショック

 今週、地上波での放送が自粛されて話題となったアニメ「School Days」の最終回が「AT-X」で放映され、大きな反響を呼びました。
 その反響は絶賛するものや反発するものなど賛否が分かれていましたが、そういった作品の評価とは別に「これは地上波での放送は無理だろ」とか「TV局の判断が正解」といった自粛を支持するものが少なくありませんでした。その中には軽い気持ちで書いたものもあるでしょうが、本当にそのように判断されたとしか思えないものがあります(また、軽い気持ちで書かれたものであっても、昔と比べ規制が強くなっている状況でそのような発言はいかがなものか感じます)。

 私は、本来なら規制に対して抵抗するべき立場のアニメオタクからそのような発言が多数なされたことにショックを受けました。それこそ最終回の内容よりはるかに強いものを。
 テンション高いままはてなブックマークコメントで色々書き散らしましたが、ここで改めて規制のあり方などについて私の考えを書いてみたいと思います。

 ネタバレを含むので“続きを読む”で。眠い。


 とりあえず、芸術性がどうとか、テーマがどうとかはどうでもいいです。規制を求める側はそんなことを見てくれませんし、そういうものは受け手しだいだというのが私の考えなので。あくまで表面的な描写のみについて書いていきます。

死体損壊描写がダメなら当然殺人描写も規制すべき?

 「School Days」最終回で問題といえる描写は4つ。2度の殺人の場面と死体の首を切断する場面と死体の腹部を切り開く場面。

 この内2度の殺人の場面は多くの視聴者が予想していたもののようです(私は最終回しか見ていないので、あくまで反応からの予想)。また、この作品に限らず殺人の場面は多くの作品で取り扱われるものなので、これは問題とはされていないでしょう。
 となると反発を招いたのは残り2つの場面。犯罪としては“死体損壊”にあたるものですね。

 さて、“殺人”の場面よりも“死体損壊”の場面を問題視するということのはどういうことでしょうか(「殺人の描写に加えて死体をを破壊する場面があるから問題なんだ」というのであれば、どういう理由で死んだのかわからない死体を切り刻む場面だったら受容できたというのでしょうか)。

 カニバリズムネクロフィリア(「School Days」にそういう描写があるわけではありませんが)がタブーとされるのは、単に病気の問題や器物破損と同程度の意味の死体遺棄やそれらの行為が殺人の動機となるからというだけではなく、死体に対する宗教的な観念や倫理観を侵すものであるからだと思います。
 しかし、“死体を弄ぶ行為”それ自体は許されるものではないとしても、倫理的、その他さまざまな基準で見た場合“殺人”という行為よりも重大な“罪”だと言えるでしょうか。
 つまり、“殺人”の描写よりも“死体損壊”の描写を問題視するのはどういう倫理観よ?!ということです。“死体損壊”の描写はダメ、じゃあ当然“殺人”の描写もダメ、となるのではないでしょうか。

 もし、殺人の描写はさまざまな作品に溢れているから感覚が麻痺し抵抗感が無くなっているのだとしたら、それこそ問題です。殺人の描写を規制する根拠となってしまいます。

悪影響があるからありとあらゆる暴力描写は規制すべき?

 こんなことを書いていますが、私は表現物が受け手に与える影響については真正面から考えるべきだと思っています。私はメタラーなので、先鋭化しすぎたブラックメタルに関する問題などからも目をそらすべきではないと思っています。
 しかし“悪影響”の問題は、規制によってではなく、できるかぎり批評という場で対処するべきだとも思っています。

 表現物の与える悪影響は、今現在は明確な因果関係が証明されていません。しかしこれは規制に反対する上での説得材料の一つとしてのみ扱うべきで、主張の中心とするのは危険です。悪影響はないから規制に反対、ではなく、悪影響があっても規制に反対。そうでなければいざ因果関係が明らかになったとき、掌を返さなければなりません。
 むしろ表現が受け手に影響を与えないなんてのは考えにくい、自分自身を振り返ってみても様々な作品に価値観を揺さぶられ、心を安定されたり不安定にされたりしてきました。何の影響を与えないと考えるのは難しいです。

 では「School Days」最終回は、その過激な描写によって受け手に悪影響を与えるものなのでしょうか。
 そもそも良い影響か悪い影響かは受け手しだいだろう、というのはこの際置いておいて、影響を与えるかどうかは表現の過激さにあるとは言えないと思います。

 子供に愛されるアニメ「アンパンマン」。この作品の基本的な構造は、「悪(バイキンマン)が正義(アンパンマン)の暴力(アンパンチ)によって懲らしめられる」というもの。恐らく多くの回がこのラインに沿ったものでしょう。
 ここには多くの問題があると思います。まず、現実には単純に善悪というものは別けられないのに、正義の象徴として「アンパンマン」、悪の象徴として「バイキンマン」を登場させ、単純な価値観を成立させている。また、正義の側からの説得は「やめるんだバイキンマン」くらいであり、バイキンマンの要望を聞きつつ円満な解決を探るような描写はされず、暴力によって問題が解決される。ついでに、何度懲らしめても懲りないバイキンマンは「悪は更正しない」というイメージを与える恐れがある。
 別に私は「アンパンマン」を貶めたいわけではなく(むしろガキの頃は好きでした)、親が子供に安心して勧める作品でも悪影響を与える可能性を孕んでいるのではないかと言いたいのです。

 「アンパンマン」の暴力描写はユルいものです。バイキンマンが殴られた瞬間はカラフルな図形が画面に広がり、バイキンマンに外傷は無く吹っ飛ばされるだけです。
 しかし、こういった違和感なく受け止められるような暴力描写や、例えば「必殺仕事人」のようなカタルシスをもたらすような描写こそが(「必殺」シリーズはメチャメチャ好きです、念のため)、すんなりと受け入れられるだけに影響を与える可能性は高いのではないでしょうか。むしろ「School Days」最終回の描写は生理的嫌悪感などを感じさせる分だけ、影響を与えにくい、それどころかそういった行為を否定的に捉えるとも考えられませんか。

 これらは全部私が適当にでっちあげたものですが、暴力描写と実際の暴力との因果関係が明確にされていない現在、そういった可能性も考えるべきでしょう。少なくとも「過激な描写だから悪影響を与える」というのはあまりに単純化しすぎだと感じます。

 誰もが見る可能性のある地上波で、問題があると考えられる番組を放送するべきでないという意見があります。実際何が問題なのかはこの際すっとばしますが、深夜放送というのは実質的にゾーニングの役割を果たしているのではないでしょうか。アニメに限らずイカガワシイ番組が多数放映されていますが、これらを見せるか見せないかは親の裁量に委ねられるべきだと思います。というか、そんなことまで他人まかせでどうするの、と。まあ、そういった主張をおこなうなら、真っ先にwebの規制を求めるべきでしょうね。

一億人から希望するボーダーを聞くべき?

 「悪影響とかどうでも良く、不快感を感じさせるからダメなんだ」という意見もあるかもしれません。公共の場での表現に不快さを理由として制限を求めるのは、一応筋は通っていると思います。
 「ゴールデンタイムにアダルトビデオを放映することを許可しろ」という要望は、さすがに不可能でしょう。あくまで現実の問題として、「できるだけ自由な表現を」という主張が完全にまかり通ることは残念ながらありえず、どこかのラインで妥協を示さなければなりません。

 しかしその妥協のラインはあくまで違う立場同士の対話によって最終的に割り出されるものであって、基本的な主張は2通りしか無いと考えます。
 自分にとって不快な表現も認めるゆるゆるのラインか、自分の好む表現も規制されるガチガチのラインか。
 個々がそれぞれの望むラインを求めたところで、それは階層化され分断されるだけであり、戦略として大きな問題があるでしょう。なら、規制に反対するなら最大限の自由を求めるというラインで手を組む必要があります。逆もまたしかり。「刺殺は良いけど首切りはダメ」なんて微妙すぎる線引きはむしろ足手まといにしかなりません。そういったことは妥協線でイヤでも決められることになります。

 「そういった表現は反発を招くだけであり戦略的に考えて問題だ」といったような“身内の批判”そのものはアリでしょう。しかし“身内の批判”だからといって「空気読め」的なものであって良いはずありません。そんなものは“世間の空気”に萎縮した創作しか認めないものであり、表現物を享受する立場から見て害悪としか思えません。
 「どこがどのように問題か」といったことを具体的に指摘できず、“感覚”でしか批判できないなら黙っていろ、と。

 規制をするならするで明確なラインを引く必要があるでしょう。「あの作品は良いけどこの作品はダメ」なんて場当たり的な規制は、実際にゲーム業界では「なぜあれが許されてこれが許されないのか」といったトラブルがおこっていますし、創作の場でも安全策をとろうとすることにより過剰な自粛がおこなわれる危険性があります。
 規制が明確であれば「アンパンチはどこまでの描写が許されるのか」といった無用な悩みに捕らわれずにすみますし、「School Days」のようにギリギリのラインを狙うようなこともできます。

放送局は金儲けのためなら何をしてもいい?

 「自粛は事件と関係なかった」といった声もよく目にしました。しかしどうでしょうね?
 本当に放送局の基準に照らして放送できなかったのなら、放送直前ではなくもっと早くから自粛が発表されていたでしょう。それに伴い代わりの番組を用意したり、そもそも基準に沿うように修正していたでしょう。あの土壇場での自粛を局の規制のためとするのはかなり無理に感じます。また個々の表現を見ても、むしろこれをどうやって規制するのか疑問に思うような、直接表現を避けたものばかりです。
 「事件と関係なかった」という声は、事件をきっかけとした場当たり的な自粛を隠蔽することになり、問題です。

 では事件をきっかけとした自粛はどう問題なのか。
 問題とされた事件は16才の少女が斧で父親を殺すというものでしたが、なぜこれが自粛の理由となりうるのでしょう?事件の関係者に配慮した、という指摘がありますが、毎日のように殺人事件がおこっている中で、この事件だけに配慮するのはスジが通っていません。話題になったから、と言うかもしれませんが、そもそもマスコミが扇情的に報道したからこそ話題となっただけであり、局は違ってもマスコミのマッチポンプに等しいものです。
 アニメが影響を与えたから?それ自体根拠が薄いだけでなく、どのような表現がどういった部分に影響を与えたかの検証もないのでは(単に凶器を選ぶ際に影響を与えただけなら何の問題もないはず)意味がありません。
 また、こういった事件がおこるたびに規制のボーダーが引き上げられれどうなるか、という問題もあります。

 「一企業である放送局がどのような判断を下そうとも自由だ」という指摘もありますが、はたしてどうでしょう。
 企業も社会の中に組み込まれた存在であり、社会的な責任から自由ではありません。表現物を放送するという事業をおこなう放送局が表現の自由や公平性に配慮する責任はないのでしょうか。そりゃスポンサーの意向を無視しろとは言えないでしょう。しかし、一度は規制を通った作品を、一つの事件を理由に自粛するということが放送局の裁量の範囲だと言えるか、疑問を感じます。

表現は、自由だ〜!

 なんというか、オタクが良識ぶってどうするの?と言いたい。オタクなら、どんな表現物も受け入れるべきではないのかと。この受け入れるというのは評価しろということではありません。不快なアニメに吐いたっていい、嫌いな漫画を破り捨ててもいい。ムカつくゲームをたたき壊してもいい。それでもそれらが世に出ること自体を否定するなと。まして「俺が不快だからやめろ」などと言うのであれば、そいつの好きな作品を全て規制してやりたい。
 「School Days」最終回はAT-Xで放映されましたが、放映されなかった可能性もあった。まあ、どんなことがあってもDVDには収録されるでしょうが、それでも人目に触れる機会は多ければ多いほどいい。それを少なくする方向で動いてどうするのですか。その方向には規制を求める人達が動くのですから、多様な表現を認めるべきオタクが賛同する必要はないでしょう。

 規制とは関係なく、絶版となった漫画が再出版されるに越したことはない。昔のアニメが再放送されるに越したことはない。昔のゲームが最新機種に移植されるに越したことはない。作品は受け手がいて初めて意味を持つのだから、それを妨げる方向に動くことはあって欲しくない。

ついで

 一つ気になったブックマークコメントがあります(http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/NaokiTakahashi/20070928%23p2)。

Fischer メディア 「こんなの地上波で流せるか」って「是非やってくれ」という意味でしょ? ベタに取ってる人が多いのが不思議

 なるほど、「〜だろ、常識で考えて」というフレーズが実際には逆の意味を持つように(もっとも最近はベタに使っている人が多いように感じますが)、「中止にして正解だな」というのが「そう感じるほど見事な残酷表現だった」ということなら、私はこんなエントリー書く必要はなかったし、むしろ無自覚なわら人形論法ということで赤っ恥ものです。
 しかしやはりベタに言っている人が多数いると思います。「はてなブックマーク−【2ch】日刊スレッドガイド : School Days最終話 事件関係無しに地上波では放送できないような内容でした」からベタに言っているとしか思えないブックマークコメントをピックアップしてみます(ネタかベタか判断に迷うものは省きました)。

Alluvium 2ch, anime 地上波で放送しなくて本当によかった。個人的には最高だったけど世間一般では受け入れがたい内容。R指定とかそんなレベルじゃない。
freeflyflow2 オタク, あたまいたい, 2ch, まとめ, 18禁 …何というか…「放送しなかったからこの程度の騒ぎで納まった」と言うことなんだろうか。
inumash オタク, アニメ なんだろうな〜。「エロけりゃ何でもいいんだろ!」と劇中で叫んでた監督もいたっぽいが、こりゃ「鬼畜ならなんでもいいんだろw」というスタッフの嘲りが聞こえるな。放送中止が正しかったケースだね。
JSK * >>100 >これ最初からデキレースっぽいな こんな最終話なんか流せるはずないから 最終話にボート映像を流すことが確定していて、各所で話題にさせておいて 最終回の最後の最後であの演出をしたとしか思えん
trafficker あらまぁ スタッフがこの内容をどこまで本気で地上波に乗せるつもりだったかは気になるところ/でも考え過ぎると陰謀論に陥りそうな予感も。
junya_asa 2ch, anime こりゃ放送できないわ。例えアニメじゃなかったとしても。制作者サイドがどこまで計算していたか分からないけど、いろんな意味でぶっ飛んでる。
ore_de_work アニメ, これはひどい これ放送したら反感買うだけ。放送しないでほんと正解..ワイドにも余計に叩かれるし、 子宮裂いて「中に誰もいませんよ」って.orz糞婆団体&子供擁護団&米から圧力かかるぞそ TVKさんごめんちゃいm9(><*)
sisya 実はとても放送できないので、斧事件を理由にしていただけというオチ
walkinglint アニメ, ネタ まじ > これを地上波で流そうとしてたスタッフすげえよ
ymScott 思考 こういうのを見て「ネタだし、こんなん見てもなんとも思わない」と平然としてられるのも、それはそれで充分悪影響受けてると言える気がしないでもない。この辺、最近ちょっと自分の考え方が変わってきてる。
CUTPLAZA-Tomo アニメ, 社会 アニメを見る対象の年齢の問題が他の映画やテレビ番組と違う上に、内容的にも未成年者が見る可能性がある以上問題がありすぎる。